「黄砂(こうさ)」は、もちろん黄色い砂そのものを指す。しかし、人々の間でこの言葉が使われる場合は、その黄色の砂塵(さじん)が天空を覆い、それが降ってくる現象をいう。気象用語としても通用している。
この現象は、中国北西部の砂漠や黄土(こうど。おうど、とも読む)地帯の砂塵が強風によって天空に巻き上げられ、それが偏西風に乗って日本まで流れてくるもの。太陽も定かに見えず、全天、黄色くどんよりとした視程となる。
では、この黄砂を生む黄土とは何か。中国の代表的な大河、黄河(こうが)流域の土は、固まりにくい、さらさらした性質を持つ淡黄色の細粒の堆積物。この砂塵が流れ込んで黄河の、海にまで出て黄海の名の由来となっている。どれくらい細かい砂かといえば、シルト(silt)と呼ばれる直径0.002mmから0.02mmの粒子が大半というから、まさに微粒。これなら、空高く舞い上がるし、目にも入るわけだ。
統計的には、日本では3月ごろから現れ、4、5月に最も多いとされている。
俳句の世界では、これを「黄塵万丈(こうじんばんじょう)」とか「霾(つちふる)」といって、春の季語、季題にしている。「霾」は、音読みでは「ばい」。たぶん漢字検定でも相当高レベルになるだろう。
「霾」は、まず雨冠なので、何か天から降ってくる、あるいは霧や雪のような気象現象だとはわかるだろうが、何しろ、雨冠に「たぬき」の旧漢字である。「はて?」なのだが、「貍」には晦(くら)ます、暗くするという意味があるそうだ。これで、天を暗くし、砂塵が降ってくる、という意味ができあがるということ。
従って、「霾天(ばいてん)」は黄砂で暗く曇る空、「霾風(ばいふう)」と書けば黄砂混じりの強風となる。ご用心。