「立夏」は二十四節気の一つで、5月の5日、6日ごろにあたる。この日から立秋つまり8月の7日、8日あたりまでが、暦の上の夏になる。二十四節気でいえば、春分と夏至の中間。いくら暦便覧が「夏の立つがゆえ也」と「立夏」の説明をしても、まだ晩春の気配も残り、そのためか、立夏の当日には、これといった行事がない。
一般通念、あるいは気象学的には、6月から8月が夏なのだから、体感的、実感的に「夏」が感じられなくても仕方がない。ただ、気温は上がらなくても感覚的に「夏」を受け止めることはできる。
たとえば持統天皇の次の歌。
「春過ぎて夏来(きた)るらし白妙の衣干したり天の香具山」
知らぬ者のない万葉秀歌だが、晴天に干した白布は、まさに「夏」の感覚である。
また、俳句の世界では、力のある季題、季語として「夏立つ」「夏に入(い)る」「夏来(きた)る」があり、多くの名句を生み出している。
たとえば昭和俳壇の巨星、西東三鬼(さいとうさんき)の「おそるべき君等の乳房夏来る」は、夏の装いとなった若い女性のはつらつとした感じをとらえて立夏を際立たせた。
夏が来れば思い出す、という歌い出しの名曲もある。水芭蕉の咲く尾瀬の風景を描き出した江間章子の詩と中田喜直の曲による「夏の思い出」である。江間章子の詩による歌曲としては「七色の谷を越えて」という歌い出しの「花の街」(團伊玖磨作曲)という春の名曲もある。両曲ともに、合唱コンクールなどにはなくてはならない国民的歌曲となっている。