雑節の一つである「入梅」は、6月11日ごろにあたり、「梅雨(つゆ)入り」のことをいう。「入梅」と書いて「にゅうばい」と読み、「つゆいり」で辞書を引けば「入梅」と出てくる。入梅は「梅雨入り」の漢語的表現。つまり、学校に入る「入学」などと同じ形。したがって、入梅の「梅」が何なのか承知していなければ、「いりうめ」とは何ぞや、「梅に入るってどういうこと」という話になってしまう。
この「梅」は、「梅雨」の「梅」。ご存じ、日本の雨期である。中国にも同じような気象状況があり、これを「梅雨(メイユー)」という。中国でも日本でも梅の実の実るころ。その時期の長雨である。
日本では、従来、この時期の長雨は「五月雨(さみだれ)」と呼ばれていたが、江戸時代以降、この「梅雨」という漢字を雨期の言葉として取り入れて「ばいう」とし、水気をいう「つゆ」という読み方を重ねて広まった、とされている。あるいは、ジメジメとして黴(かび)がはびこる時期なので「黴雨(ばいう)」。この「黴」に梅の字をあてたともいわれる。
いずれにしても「梅雨」という言葉が人々の間に定着していなければ、「入梅」などという、ちょっと気取った漢語はつくれない。中国から入ってきた暦の中の二十四節気は、年中行事が中心だが、もう少し日本の農事や生活に即した季節の言葉が必要だということで、江戸時代に「雑節」ができた。この「入梅」もその一つで、ほかには「節分」「八十八夜」「土用」「二百十日」などがよく知られている。
暦でいえば、二十四節気の一つ「芒種(ぼうしゅ)」が6月6日ごろのことだから、その5日後あたりが「入梅」のタイミング。芒種は、「タネを蒔(ま)く時期」とされているので、芒種で蒔いた種を育てるのに十分な水分を「入梅」で得る、という段取りになる。また、農事で最も大切な「田植え」の時期も教えてくれる言葉である。
「入梅」はあくまで雑節、つまり暦の目安の言葉だから、実際の気象現象として気象庁が発表する「梅雨入り」ではない。当然のことながら、実際は日本各地で梅雨入りの時期は異なる。