「でんでんむしむし かたつむり」。これはおなじみの文部省唱歌「かたつむり」の冒頭の歌詞だが、この生き物をデンデンムシと呼ぶ地方の子どもたちは、なぜデンデンムシとカタツムリを重ねて歌っているのか不思議だったのではないか。あるいは、異称の多いこの生き物を君たちはデンデンムシと呼んでいるが、実はこれはカタツムリというものなのだよ、と教える教育的配慮に満ちた歌詞だったのだろうか。
湿気の多い時期、樹や草の上をゆっくり移動しながら若葉を食べている。雨の時期に印象的な、小さな生き物である。
この生き物はデンデンムシと呼ばれながら、もちろん「虫」ではない。陸に棲(す)む有肺の「巻き貝」。その巻き貝の一群の総称がカタツムリなのである。
関東のミスジマイマイ、関西のナミマイマイ、九州のツクシマイマイ、全国に分布するオナジマイマイなど、日本だけでも700種ほど、世界には2万種はいるといわれるほど、この巻き貝は広く分布している。フランス料理でおなじみのエスカルゴも、このお仲間の食用カタツムリである。しかし、その2万種の巻き貝の巻き方は、ほとんどが右巻きとのこと。
漢字表記の「蝸牛」の「蝸」は巻き貝からの連想。「牛」のほうは、先の童謡で「角だせ 槍(やり)だせ」とはやされている、あの頭部の長い触角が、牛の姿につながったのだろう。その「角」といわれている触角の先端に眼が付いている。
日本の民俗学の巨人、柳田国男は「蝸牛考」で、この巻き貝の日本での呼称について、500以上といわれる方言を分類、整理した。その代表的な呼称の一つが「デンデンムシ」で、殻にこもったデンデンムシに向かって、子どもたちが「出ろ、出ろ」とはやしたところからとか。もう一つの代表的呼称が「マイマイ」。中世歌謡のアンソロジー「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」に、子どもたちが「舞え舞え」とカタツムリをはやす個所があり、これと「マイマイ」の関連を指摘しているが、やはり基本的に「巻き貝」の「巻き」が語源に近いだろう。