「半夏生(はんげしょう)」については、少し話がこみいっているので、一つずつ順に説明してみよう。
まず、何が話を複雑にしているのか、という前提を押さえておく。それにはポイントが二つある。
第1のポイント。「半夏生」という言葉が指すものが二つあるという複雑さ。一つ目の意味、「半夏生」は、二十四節気と同じような季節の節目を指す言葉である「雑節」の一つで、二十四節気の「夏至」から数えて11日目、つまり、7月2日ごろのことをいう。
もう一つの意味は「半夏生」というドクダミ科の多年草のこと。植物のほうの「半夏生」は、雑節の「半夏生」のころに花を開き、葉が白くなることからこの名が付けられたという。
さらに話が複雑になる第2のポイントがある。それは、植物のなかに「半夏生」だけでなく、「半夏(はんげ)」といわれるものがある、ということ。いや、「半夏生」という言葉は、もともとこの「半夏」という植物から生まれたもの。したがって、本当は、このテーマは「半夏」から始めなくてはならない話なのである。
「半夏」とは、「カラスビシャク(烏柄杓)」というサトイモ科の多年草の異称。カラスビシャクは、いわば畑の雑草だが、球茎が吐き気どめなどの漢方薬「半夏湯(はんげとう)」の原料になる。半夏は、カラスビシャクの漢方での呼び方なのだ。
このカラスビシャク=半夏が生じるころ、つまり「半夏生ず」が、7月の2日ごろのこと、というわけである。これが雑節の「半夏生」となり、そして、そのころの非常に特徴的な植物をも「半夏生」というようになった。これで話はつながった。
半夏生のころの植物「半夏生」は、葉の半分ほどがべっとりと白い絵の具で塗られたような印象的な様子になる。このことから「半化粧」とも呼ばれるようになった。こちらは、見た目でわかりやすい。
雑節としての「半夏生」は、梅雨の終わりの時期。この時期までには田植えを終えておくように、ということを示す季節の言葉である。