この季節、全国各地に朝顔市はあるが、ただ単に「朝顔市」といって、多くの人が思い浮かべるのは、東京都台東区入谷の「朝顔市」ということになるだろう。毎年7月の6日から8日(2008年は18日~20日)の3日間、「恐れ入谷の鬼子母神」で知られる真源寺(しんげんじ)近辺で開催され、支柱に蔓(つる)をからませる「行灯(あんどん)づくり」の鉢が万単位の数で売れるという。
ただ、この入谷の朝顔市、隆盛となったのは、この町に朝顔づくりの植木職人が増えた明治中期以降のこと。そして、都市化とともに大正初期には姿を消したが、戦後に地元の協力で復活し、現在の盛況につながった。
もともと朝顔は熱帯アジアが原産で、奈良時代に中国から日本に渡来した。栽培の主な目的は、薬の原料としての種子を得ることだったのである。
朝顔の種子は、現在も漢方の下剤、利尿剤の材料とされるが、古く中国では、牛と交換してもよいというほどのお値打ち品。このことから、朝顔の種子の漢名「牽牛子(けんぎゅうし)」が生まれたとされる。
観賞花としては、江戸時代後期に発展。様々な園芸種がつくられた。とりわけ、そのすっきりとした姿、色が都会人の好みに合ったのか、大坂、江戸で大流行した。そして、朝顔はこの季節の花の代表となり、著名俳人たちの詩心も大いに刺激したようである。
「朝がほや一輪深き淵のいろ」 与謝蕪村
「朝顔につるべとられてもらひ水」 加賀千代女
「暁の紺朝顔や星一つ」 高浜虚子
「朝顔の紺のかなたの月日かな」 石田波郷
また、入谷の朝顔市がらみの名句も多々。
「入谷から出る朝顔の車哉(かな)」 正岡子規
「朝顔や客が好みの立ち話」 水原秋桜子
この朝顔市のあと、東京の夏の二大風物詩は、7月9日、10日の浅草寺「ほおずき市」へと続く。また、鉢が増える。