地理的条件により、年間を通じて湿度の高い日本では、古くからの生活の知恵として「虫干し」を行い、そのことによって、衣類や書籍、書画などをカビや虫の害から守ってきた。この「虫干し」の習慣のうち、夏の土用のころ、つまり立秋の前の18日間、7月の下旬から8月の上旬あたりに行うものを「土用干し」という。
もちろん、衣類や書籍などを「干す」といっても、直接、陽光にさらすわけではなく、陰干しであったり、風にさらしたりするものである。
とりわけ衣類のなかで、動物繊維の絹物、羊毛物などは虫の害を受けやすいので、「土用干し」をはじめとして年に数回の虫干しを励行したほうがよい。「土用干し」は、梅雨明けの晴天の続くころということになるが、そのほかに、10月ごろに行うものを「秋干し」、12月から2月ごろに行うものを「寒干し」という。いずれにせよ、虫干しは、害虫の点検やカビ防止に最も有効な方法なのである。
二、三日晴れが続き、湿度が低くなった好天の一日、正午前後の数時間のうちに、窓やふすま、ドアを開けて、風通しをよくしてから行う。
着物ならば、裏返しにして衣紋(えもん)掛けにかけて陰干し。その間にたんすや押し入れもからぶきし、風を通しておくとよい。
書籍や書画の「虫干し」については、寺院などで行事化しているものも多い。たとえば、浄土真宗の城端(じょうはな)別院「虫干法会(むしぼしほうえ)」。富山県南砺(なんと)市の城端にある善徳寺で、毎年7月の22日から28日の間に行われる大きな行事である。開基である蓮如上人ゆかりのお宝や、庇護を受けた加賀前田家寄進の寺宝など900点余を、この期間中、虫干しを兼ねて展示する。500年にわたり、一度も火災に遭(あ)ったことがないとのことだが、こうした「虫干し」によっても、長い間、歴史的宝物が守られてきたのだろう。