夕焼け小焼けの赤蜻蛉(アカトンボ)。大正10年(1921)に三木露風作詞、山田耕筰作曲によってできた童謡「赤とんぼ」ほど、日本人に愛唱されてきた歌はないだろう。“わが心の歌”といった類のアンケートでは、「うさぎおいし」の「故郷(ふるさと)」と常に1位を争う。すでにジャンルを超えた、国民的歌曲である。
この歌の影響もあるのか、トンボといったときに多くの人が心に思い浮かべるのは「赤トンボ」だといわれる。その赤トンボの代表的種類が「アキアカネ」。これが群れとなって山から里に下りてくると、日本の秋。
この名前からもおわかりのように、一般に「赤」トンボといいならわしてはいるものの、そのほとんどは、アカネ(茜)色かダイダイ(橙)色。ほんとうに赤くなるのは、成熟したオスだけらしい。
秋風が吹いて、山から平地に下りてくると、生殖行動を始める。日本の神話時代、神武天皇は大和の国の山上から「国見」をしていわく、「アキツのトナメの如し」。「アキツ」はトンボの古名。「トナメ」はトンボが交尾しながら飛んでいる様子である。
神話の世界では、日本の国を「豊秋津洲(とよあきつしま)」と呼ぶ。つまり、豊かにたくさんのトンボが飛んでいる島、というわけだ。ちなみに「秋津島」「秋津洲」は大和の国あるいは本州の異称で、「蜻蛉洲」とも書く。