大阪府の南部、昔の国名でいえば「和泉」、泉州は気性の荒っぽさでも知られるが、そのあたりを象徴するような祭りがある。通称、岸和田の「だんじり(檀尻/楽車)」。毎年9月の中旬に行われる「岸和田だんじり祭」である。
祭りでは、「だんじり」と呼ばれる精妙な彫刻が施された地車を、にぎやかな囃子(はやし)とともに、大勢の若者が猛烈な勢いで曳く。あるいは「だんじり」同士がすれ違うときに激しくもみあう。そのため、日本一勇壮な祭りともいわれている。
300年の伝統を誇る祭礼といわれ、もともとは岸和田城主岡部氏が元禄16年(1703)に京都の伏見稲荷を城内に勧請し、五穀豊穣を祈願する稲荷祭りを行ったのが起源とされている。
ただ、この「だんじり祭」は、現在35台(岸和田・春木地区)の「だんじり」を持つ岸和田の町衆によって実質的にになわれてきたため、祭礼としては各町内の氏神社に宮入りする。たとえば、岸和田の城下町を中心とした旧岸和田市地区の各町は、岸城(きしき)神社や岸和田天神宮に宮入りして安全祈願などを行うのである。
祭礼の日取りは、明治以降長く9月14日が宵宮、15日が本宮で行われてきたが、2006年より敬老の日(9月第3月曜日)の直前の土曜日、日曜日の2日間の開催となった。
「だんじり」の呼び物は「やりまわし」といわれる、通りの角の曲がり方。猛烈なスピードで大きな地車を引くため、城下町特有のS字状の通りの曳行や90度の方向転換は相当の危険を伴う。命がけである。しかし、そこをものともせず、スピードを落とさず曳くというのが岸和田町衆の心意気か。
また、「大工方(だいくかた)」と呼ばれる若者が「だんじり」の屋根の上で団扇(うちわ)を両手に持って舞うというか飛び跳ねるというか、独特のパフォーマンスを見せるのだが、これも「だんじり祭」の一つの象徴。相当のスピードで走る「だんじり」の屋根の上でのことだから、一つ間違えば転がり落ちて大変な事態になりそうだが、その勇ましさは、火事場の屋根に登って纏(まとい)を振る「火消しの纏持ち」のようなものか。
このあたりも「泉州男」の気合の見せ所、「だんじり」の何ともいえぬ魅力なのだろう。