「どの辺からが天であるか」と書いた詩人がいたが、秋はことさら天の高さを感じさせてくれる季節。なかでも、高い空に浮かぶその形で、ああ今年も秋になったのだなあという思いをつのらせてくれるのが、鰯雲(いわしぐも)である。
ただし、「鰯雲」は俗称、通称であって、空一面に斑点のように、あるいは列のようになって広がるその雲は、正しくは巻積雲(けんせきうん)、あるいは高積雲(こうせきうん)という。巻積雲は、古い書物などでは同じ読みで「絹積雲」などという美しい表記に出合うこともある。
雲の呼称には10種類があって、これを「10種雲級」という。高層から低層へ順に、巻雲、巻積雲、巻層雲、高積雲、高層雲、乱層雲、層積雲、層雲、積雲、そして積乱雲、つまりおなじみの入道雲になる。ちなみに中緯度の地域では、もっとも高層の巻雲は5000mから1万3000mの高層に現れる。したがって、巻積雲はそれに次ぐ高さに現れる雲ということになる。
さて、秋の高空に浮かぶ巻積雲、通称、鰯雲だが、その白い小さな雲がびっしりと並ぶ形態から、「鱗雲(うろこぐも)」あるいは「鯖雲(さばぐも)」とも呼ばれる。いずれにしても、秋分点を境にして太陽のエネルギッシュな活動は南半球へ移り、雲も夏の水平線に浮かぶ積乱雲からぐっと高層の鰯雲に変わり、見慣れた「日本の秋空」となっていく。
そして、その高い秋空に広がる鰯の大群や、鯖の大群のように見える雲。きっとそれは、漁師たちにとっては、大漁の吉兆に見えたことだろう。
ところで、この巻積雲が浮かぶ空のことを、英語ではマックレル・スカイ(mackerel sky)という。マックレルとは「さば」のこと。なるほど、思いは同じだったのか。