秋刀魚(サンマ)。その旬(しゅん)と形からそう書くのだろうが、この表記の仕方、意外と新しく、大正時代以降のこと。古くは「青串魚」でサンマと読ませたものもある。
もともと、サンマは中部地方以北の呼称。京都、和歌山などではサヨリ、関西から四国、九州あたりでは、サイラ、サイリ、サエラなどと呼ばれていた。したがって、漢字表記も「佐伊羅」といったものが残る。
最近は、冷凍技術の進歩で年中食べられるけれど、やはり秋刀魚の字のごとく、秋が一番旨(うま)い。
サンマという魚は、春、黒潮に乗って北上、盛夏に北海道方面で十分にプランクトンを摂り、8月半ばに反転南下、脂肪含有率20%と最高に太って旬の秋となる。10月が最も旬といわれるが、その旬の秋刀魚の旨さの秘密は、この脂肪、脂にある。コクも、口当たりも、焼いたときのあの食欲をそそる匂いも、すべて脂あってこそ、なのである。
この秋刀魚の脂こそ、大半が血中コレステロールを下げ、動脈硬化防止の働きを持つ「不飽和脂肪酸」。なかでもDHA(ドコサヘキサエン酸)は、頭の回転にも効果大とか。
また血合肉は、これも血中コレステロールを低下させるアミノ酸「タウリン」を多く含有。ビタミンA、B、D、E、カルシウム、鉄分も豊富で、いうことなしの食材である。
今、日本人に大人気のマグロが18世紀後半まで「士人以上の人は食はず」などといわれていたような、つまり食材の貴賎などというものはまったくナンセンスな話だが、秋刀魚もまた江戸時代半ばまでは「下魚(げうお)」とされていた。しかし、おいしいものは、おいしい。18世紀の後半からは大衆魚として広まり、贈答にも用いられるようになったという。
最近の全般的な「魚離れ」のなか、もっと消費を増やそうとのことで、サンマカツなどの新メニューも考案されているが、やはり塩焼きで大根おろしを添えるのが一番。それも、焼きたてが何より。落語「目黒のさんま」のお殿様も、そうおっしゃっている。