陰暦での12カ月のそれぞれの月には、いくつかの異称がある。最もよく知られているのが、3月の「弥生(やよい)」や5月の「皐月(さつき)」などだが、10月の「神無月(かんなづき)」もよく知られている。
陰暦10月の異称「かんなづき」については、神を祀(まつ)る月なので「神の月」であり、その「の」が格助詞の「な」になったものとか、新穀で新酒を醸(かも)す月だとして「かみなんづき」が変じたものとか、雷のない月で「雷無月(かみなしづき)」がもとであるとか、語源に諸説ある。
そのなかで、世の中に最も流布しているのが、この月は日本中の神様が「縁結び」をはじめ1年の相談のため「出雲大社」に集まるので各地元では神様がいなくなり、「神無月」つまり「かんなづき」になる、というもの。したがって、逆に出雲地方だけは「神在月(かみありづき)」といわれるのである。一般に出雲大社を中心とした「出雲信仰」は、縁結び、農耕の守護、開運出世などがかなうことを願う。
さて、この全国の神様が出雲に出かけるという伝承、「神無月」に連動することば、年中行事が日本の各地にある。それを、「神送り」という。
日取りとしては、神無月の始まる前日の、陰暦9月の晦日(みそか)。この日の夜、日本の北から南から、東から西から、出雲を目指して多くの神様が出発する。
地元の神様を出雲に送り出すので「神送り」というのは非常にわかりやすいのだが、このことばはいわば行事の標準語、スタンダードな言い方で、それぞれの地方では、独自の呼称での行事になる。それが「神の御飛び」「神の御立ち」「神の渡し」などと呼ばれる行事で、たとえば九州の長崎や千葉県安房地方あたりでは「御登り」、和歌山などでは「御飛び」などと呼ばれているようだ。
形としては、九州の漁村などではこの夜、鎮守の神社に氏子が籠(こ)もったりするとのこと。この地方に限らず、未婚の男女が「神送り」の前夜に「宮籠もり」をしたり参拝をしたりすれば、良縁を得られるという言いならわしも、出雲に集まった神様が「縁結び」の相談をする、という「出雲信仰」によるものである。