毎年10月の第2日曜日、埼玉県秩父市吉田にある椋(むく)神社の例大祭で「龍勢(りゅうせい)」が行われる。旧吉田町は、いわゆる「平成の大合併」で、2005年に秩父市と合併したが、従来からこの祭りは、「吉田の龍勢」として全国に知られている。当日の「龍勢」の様子は必ずといっていいほどNHKの全国ニュースに取り上げられ、白煙を引いて秋の青空に飛び出す「龍勢」の姿が人々の目をひきつけてきた。
埼玉県の山間部の小さな町の秋祭りが全国ニュースになるにはわけがある。それはひとえに「龍勢」というものの珍しさと、その迫力によるものだろう。
では、いったい「龍勢」とは何か。どういうものなのか。簡単にいえば、10~15m余りの長大な青竹に、直径15cmほどの松の木をくりぬいた火薬筒を結びつけ、これを高さ20mほどの打ち上げ櫓(やぐら)にかけて点火し、天空に飛ばすもの。
16世紀後半の天正年間に始められたとのことだが、いわゆる「蒙古襲来」時の蒙古軍の「ロケット砲」石火矢の構造や、その後発達した火器、火薬の知識が農民の間にも広まっていったのだろう。完全な「手作りロケット」であり、その歴史の長さから「農民ロケット」ともいわれている。
轟音(ごうおん)を立て、瞬く間に大空に向かって300~500mも舞い上がる。それが龍が勢いよく天に昇るさまに似ているところから、「龍勢」と呼ばれるようになったとのこと。したがって、この「ロケット」そのものを龍勢といい、これを飛ばす「イベント」そのものも龍勢というのである。
わかりやすく「イベント」と表現したが、正確には「延喜式」にも記される秩父地方の古社「椋神社」秋季大祭の奉納神事。現在ではこの龍勢の行事そのものが「龍勢」として親しまれている。打ち上げの迫力だけでなく、上空で落下傘が開く「仕掛け」も楽しい。
龍勢にはいくつもの作り方が地元に伝わり、それぞれが流派となって連綿と続いているが、現在は27流派が龍勢祭に参加。それぞれの流派による個性的な龍勢が、30発余り打ち上げられるたびに、秩父の山々に歓声が響く。