10月の19、20日、東京都中央区日本橋本町の宝田恵比寿神社の界隈(かいわい)は、「べったら市」の人出で大いににぎわう。
「お江戸日本橋」のフレーズでも有名な日本橋は、徳川家康が江戸に移って間もない慶長8年(1603)に隅田川と外堀を結ぶ「日本橋川」に架けられた橋。現在でも橋の中央に全国への道路元標があるが、400年前も日本橋界隈は江戸の中心街であった。
現代の日本橋は日本銀行をはじめとする金融の中枢であり、また百貨店が集まる商業の重要地域。その日本橋地域の実業・商業の活況は江戸時代からの歴史を踏まえたものといえる。
おおよそ商業の盛んな街には商売の神様「えびす様」を祀(まつ)る神社がある。当地においては、それが「宝田恵比寿神社」である。そして、恵比寿神社を信仰する人々には「恵比寿講」というならわしがあり、10月20日のその日、商家では友人、知人、関係者を招いて商売繁盛、家内安全を大いに祝う。この祝宴は日本橋の繁栄を反映して活況を呈し、そのための諸道具、食料などの市が前日の19日から門前に立つようになった。
とりわけそのなかで、市に集まる人々の評判をとったのが大根の浅漬け。そうして当然のように「べったら漬け」というこの漬物の店が日本橋大伝馬町を中心に多く出店するようになり、幕末のころより市全体が「べったら市」と呼ばれるようになったという。
「べったら漬け」の名称については、漬ける材料の米麹(こうじ)が付いたままのこの漬物を、若い衆が人出のなかで「べったりつくぞー!」といたずらしながら売ったから、ともいわれている。
いずれにせよ、秋から冬に向かおうかという時期の忘れられない江戸の美味、そして風物詩である。値段も「年に一度のお祭り価格」とのこと。