10月22日の「鞍馬の火祭」もそうだが、この時期の京都には「火の祭り」が多い。11月8日の「伏見稲荷大社火焚祭(ふしみいなりたいしゃひたきさい)」も「京都の火の祭り」を代表する一つである。
京都市伏見区にある「伏見稲荷大社」は、「お稲荷さん」つまり日本各地の稲荷神社の総本社である。というよりも、単に「稲荷神社」といえば、この京都の伏見稲荷大社のことを指す。これはたとえば、広く「伊勢神宮」と呼ばれているあの神社の正称が、単なる「神宮」であるのと同様のことなのだろう。つまり、「代表」は、何々という固有の地名などつける必要がないということか。
そもそも「稲荷信仰」というのは、「いなり」は「稲生(いねなり)」の転化かといわれるように、五穀をつかさどる倉稲魂(うかのみたま)を祭神とする信仰。和銅4年(711)の鎮座という伏見稲荷大社も、古くは五穀豊穣や蚕桑(さんそう)の安定を願う神であり、次第に商業神、屋敷神などにも信仰が広がった。
狐がこの「お稲荷さん」の神使とされるのは、食物を主宰する神で、稲荷の神の一つの名前でもある御食津神(みけつかみ)について、読みが同じ三狐神(みけつかみ)が当て字されたことによる俗信。ここから、狐の好物とされる油揚げや、それを使った寿司も「いなり」と呼ばれるようになった。
さて、伏見稲荷大社の「火焚祭」だが、この日、日本全国の信者から奉納された「火焚串(くし)」が、神職の祝詞奏上、巫女の奉奏のなか、焚き上げられる。それぞれに祈願者の名前と願い事が書かれた、幅約2cm、長さ約25cmの火串。その数十万本という火焚串を、境内に設けられた3基の火床で稲わらを燃やして焚き上げる。その火炎の大きさは、各地の火祭りのなかでも最大級のもの。
春2月の初午(はつうま)大祭で山から稲荷大神を迎えて五穀豊穣を祈り、この11月の火焚祭で秋の収穫を感謝する。こうした人間の基本的な祈りとともに、無病息災、家内安全、罪障消滅、万福招来を願うのである。
「流造り」という様式の本殿は国の重要文化財。数千本の赤い鳥居が続く参道の景観には圧倒される。