奈良県桜井市にある三輪山(みわやま)。ここにある大神神社で、毎年11月14日に「酒まつり」が行われる。
名産「三輪そうめん」の里としても知られるこのあたりは、いわゆる「大和(やまと)」と呼ばれる一帯。日本の古代史の主舞台の一つ。
三輪山は、耳成山(みみなしやま)、香具山(かぐやま)、畝傍山(うねびやま)の「大和三山」とともに、この地方ではもっとも知られた山で、標高467m、円錐形に整った山容が際立っている。そしてこの山は、全国の「神奈備山(かむなびやま)」、つまり神の鎮座する山、いわば「山そのものがご神体」という原初の神祀(まつ)りの形を伝える代表的な存在。杉、檜(ひのき)、榊(さかき)、松などの一木一草にまで神が宿るとして大切にされている。
その三輪山にある「大神神社」は、日本の神社のなかでも最も古い神社、「神様のなかの大神様」として尊崇されている。「大神」と書いて「おおみわ」と読む。三輪山の「みわ」。その三輪山が「ご神体」なので、大神神社には普通の神社のような本殿はない。
祭神は、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)。大己貴神(おおなむちのかみ)と少彦名神(すくなひこなのかみ)が配祀されている。この三輪山は古事記、日本書紀の神話に包まれた地域だが、大神神社の神々は「国づくり」の神様として、農業をはじめとするすべての産業、そして病気治癒、交通、縁結びなど幸福な生活にかかわるすべての事柄の守護神とされる。もちろんそのなかに、人間の喜びの一つとしての「酒造り」も入っている。
「酒造りの神様」「醸造の祖神」として仰がれる大神神社。例年11月14日は、日本酒の香りに包まれる。新酒の「醸造安全祈願祭」、通称「酒まつり」が行われるのである。
前日の13日には拝殿・祈祷殿向拝に吊り下げられている直径1.6m、重さ150kgの大杉玉が、緑鮮やかな新しいものに取り換えられる。
杉玉は杉の葉を束ねて球の形にして酒屋の軒(のき)にぶら下げ、「酒を扱う商売」の看板にするもの。また、新酒造りの始まりを知らせるもので、酒林(さかばやし)ともいい、これは、「酒の神様」三輪の大神神社の杉を神木とすることに由来する。
「酒まつり」の当日、新酒の仕込みに入る時期を背景に、全国の酒造蔵元、杜氏(とうじ)などが大神神社に集合。拝殿には奉納された全国の銘酒の樽(たる)がうず高く積み上げられる。
そして巫女(みこ)による神楽「うま酒みわの舞」が舞われるなか、美酒がふるまわれるのである。