「大晦日」。こう表記して「おおみそか」と読む。つまり、その年の最後の日、12月31日のこと。などとことさら説明するのも、もともとは、大晦日といっても12月31日は存在しなかったからである。
日本で現在使われている太陽暦は、西欧文化に倣う「文明開化策」の一つとして明治5年(1872)12月に新採用されたもの。この改暦以降、1年12カ月の日数は365日となった。
太陽暦は太陽の周りを地球が1公転する時間を1年とし、1年を365日と定める。そして基本的に30日の小の月と、31日の大の月を交互に配する。こうして日本で初めて月の最終日に31日という日付が誕生したのである。
旧暦と呼ばれることになった、それまでの天保暦などは「太陰太陽暦」で、太陰暦をベースにしたもの。つまり、月の満ち欠けの周期を基軸にした暦であり、1年を354日、1カ月が約29.5日だから、小の月を29日、大の月を30日とした。
これから、その月の最終日を三十日(みそか)と呼び、「みそか」が月末の意味として定着するなかで、小の月の最終日である29日は「くにちみそか」と呼ばれたのである。さらに、その年の最終月の最終日ということで特別扱いし、強調する意味で、頭に「大」をつけ、「おおみそか」と呼ぶことになった。つまり、月の大小が年によって変わる旧暦においては、それは12月29日か30日だったのである。
そして、新暦である太陽暦に移行後も、31日を「みそか」とは読めないけれど、月の最終日という意味で「みそか」と呼びならわし、12月の31日が「おおみそか」として定着していった。
さて、表記のほうの「大晦日」の「晦日」だが、これも太陰暦のベースである月の満ち欠けが関係する。「晦」という字は、「月が暗い」という意味で、満月の十五夜は明るいが、欠けてしまった月末は暗い、ということ。従って、その月の最終日である「みそか」は月が暗い日で「晦日」となり、年の最後の日は「大晦日」となったわけだ。
このことは月末を指す「つごもり」という言い方にも関連している。「つごもり」は「月隠(つきごもり)」のことであり、月が隠れて光がなくなること、つまり月が暗い「月末」の意味。したがって年の最終日を「大つごもり」ともいう。樋口一葉の名作に書かれた、その日である。