「如月(きさらぎ)」は、2月の異称である。1年12カ月の呼称について、1月、2月というふうに順に呼んでいくのとは別の、つまり数字的順番には何の関係もない呼び方が、日本にはある。しかも、一つの月にいくつもの呼称がある。
なかでも、最も多い1月などは、たとえばおなじみの「睦月(むつき)」をはじめ、「初春(しょしゅん)」「祝月(いわいづき)」「太郎月(たろうづき)」など、80種もの異称があるとのこと。
そういった各月の異称で、よく知られているものを並べてみると、3月以降は次のとおり。
3月「弥生(やよい)」、4月「卯月(うづき、うつき)」、5月「皐月(さつき)」、6月「水無月(みなづき、みなつき)」、7月「文月(ふみづき、ふづき、ふんづき)」、8月「葉月(はづき、はつき)」、9月「長月(ながつき、ながづき)」、10月「神無月(かんなづき、かみなづき、かむなづき)」、11月「霜月(しもつき、しもづき)」、12月「師走(しわす)」。
ここに並べた各月の異称は、もともと日本語、大和言葉での呼び方で、「和風月名」ともいわれているもの。なるほど、そういわれてみると「にがつ」というよりも「きさらぎ」というほうが、自然と肌になじむ、という人も多い。異称ではなく、美称というべきものかもしれない。
そして、もちろんこれらの異称は「陰暦」ベースの呼び方なので、現在の「陽暦」では梅雨の真っ只中である6月が「水無月」になっていたりする。
現在の季節感とのズレということでは2月の「如月」についても同様なことがある。日本人が最もよく知っている和歌の一つ、あの西行法師の「願わくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」の解釈。「できるならば、2月の満月のころ、桜の花の下で死にたいものだ」というわけだが、現在の感覚で2月の桜といえば暖地の緋寒桜くらい。しかし、陰暦の2月の満月のころは今の3月の中、下旬あたりかと考えると、この美しい情景もうなずけるだろう。
「きさらぎ」は「如月」の他に「衣更着」と表記されることも多く、そこから、寒いので着物を更に着重ねることと捉えられがちだが、それは俗説で、本来は春になって草木がよみがえる、更生することをいう「生更ぎ」、あるいは陽気が重なる「気更来」の意である。