茨城県鹿嶋市宮中にある鹿島神宮は関東屈指、日本で最も有名な神社の一つである。その鹿島神宮の年間祭礼の中でも、重要かつ大きな祭礼とされる「祭頭祭(さいとうさい)」が3月9日の午前10時から行われる。鹿島神宮は常陸一の宮、そしていわゆる旧官幣大社で、祭神は武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)。古くから軍神、戦の神として武人の尊崇を集めてきた。
「鹿島立ち」という言葉がある。これは、一般に旅に出ることをいうが、ではなぜ「旅立ち」のことを「鹿島立ち」というのか。これは、鹿島神宮が軍神、武神を祀(まつ)ることに由来する。鹿島神宮と近隣の下総一の宮香取神宮が古来、軍神として尊信されてきたのは、「天孫降臨」に先立ち「葦原の国」の「荒ぶる神々」を鹿島・香取の二神が平定した、と伝えられることによる。「葦原の国」とは、古事記・日本書紀神話に書かれた日本の国のこと。
そして古代、遠く九州方面の国境防備に赴く東国の防人(さきもり)、武人が鹿島神宮に長い旅の無事を祈願したことが、「鹿島立ち」の由来といわれる。
そして、この「鹿島立ち」の故事を表すといわれるのが鹿島神宮の春の大祭「祭頭祭」である。
「祭頭祭」は、現在は国選定の無形民俗文化財。春の到来を告げる華やかで勇壮な祭り、奈良時代の防人たちの旅立ち、つまり「鹿島立ち」の姿を今に伝える祭りといわれている。
3月9日午前10時からの祭礼は、当番地区の幼児から青年、年配の世話役まで700人もが参加して催行されるもの。行列の先頭は、甲冑(かっちゅう)を身につけた幼児の「大総督」。続いて、奈良時代の唐服のような衣装に色鮮やかな吹き流しをつけた「囃人(はやしびと)」が数十人、右方、左方に分かれて隊列を組む。その囃人たちが、六尺棒をガツンガツンと組んだり解いたりしながら境内や街中を練り歩く。そして太鼓の音に合わせて「イヤートホーヨトホヤー、アー、ヤレソラ」と独特の調子の掛け声を上げる。勇壮なその姿が、鹿島神宮に武運長久を祈りながら、いま旅立とうとする防人の姿を彷彿(ほうふつ)とさせる。
ただ、鹿島神宮の行政区域の表記は「鹿嶋」市。これは先に市名になっていた佐賀県鹿島市に配慮したものといわれる。サッカーJ1の強豪チーム名は「鹿島」アントラーズ。アントラーズは鹿島神宮の神鹿の枝角(アントラー)にちなむとのこと。