桜は、古来「花王」といわれ、菊とともに一般に日本の「国花」とされる花。俳句歳時記などでは、ただ「花」といえば桜を指し、日本列島に春を告げる花として親しまれてきた。今でも、桜の開花とそれに伴う「桜前線」の移動がニュースになっている。
現在では、桜は観賞用というとらえ方が一般的だが、古く暦が未発達のころは、その開花状況が農事暦であった。つまり、桜は人々の生活の基盤である農事の開始を知るための目安となっていたのである。
さらに、花のつき方でその年の農作物の豊凶が占われたため、人々が山の桜の咲き具合を見に行った。これが最も古い形の「花見」ではないかといわれる。
また、山の桜は「山の神」の依代(よりしろ)として神聖視された。平安時代末にはすでに桜の名所とうたわれた「吉野の桜」は、山での修行をもっぱらとする修験道の中心道場、金峯山寺(きんぷせんじ)がある吉野の金峰山で大切にされた「聖なる桜」が全山に広がっていったものという。
語源としては、日本神話の「木花之開耶姫(コノハナノサクヤヒメ)」の「サクヤ」や、古歌にある「サクラン」という語句を源とするという説、あるいは耕作の神(サ)が憑(つ)く座(クラ)であるという説、「咲く」の複数(ら)の意味という説などがあるが、定かではない。
桜は、一部がヒマラヤや中国大陸、台湾に分布するが、その種類の大部分は日本に分布する。古くから人々とのかかわりが深く、もともと多かった自生種に奈良八重桜のような早くからの栽培種が加わって、まさに日本は桜の国、桜列島となったのである。
今日の栽培種の90%以上が「染井吉野」といわれる。これは江戸時代末期に江戸の染井村(東京・駒込)の植木職人が育種したもので、明治期に一気に全国に広まった。葉に先立って一斉に開花する。
この染井吉野は、オオシマザクラとエドヒガンの雑種だが、その他の主な自生種としては、ヤマザクラ、カスミザクラ、チョウジザクラ、ヒカンザクラ(カンヒザクラ)などがある。
日本三大桜といわれる山梨県の山高神代桜(やまたかじんだいざくら)はエドヒガンで樹齢2000年、岐阜県の根尾谷薄墨桜(ねおだにうすずみざくら)は同じくエドヒガンで樹齢1500年、福島県の三春滝桜(みはるたきざくら)はベニシダレザクラで樹齢1000年余。すべて国の天然記念物指定。
なお、英語のチェリー(cherry)はセイヨウミザクラ(桜桃)のことであり、日本の桜はジャパニーズチェリーとして区別されている。