蒲公英(たんぽぽ)はキク科タンポポ属の多年草で、世界中に広く分布している。
日本では桜とともに春を代表する花で、土手や線路脇に咲く明るい黄色の小花というイメージが強く、春の大地のエネルギーをしっかりと伝えてくれる。
実際に非常に強い生命力をもつ植物で、その源となるのが50cm以上、中には1mにもなるという長い根。漢名の蒲公英(ほこうえい)は、このたんぽぽの根を使った漢方薬のことで、健胃、解熱、浄血、泌乳剤として昔からよく知られている。
生命力の強さは、大都会のコンクリートの割れ目からも芽を出し、あのギザギザののこぎり状の葉をたくましく伸ばしていることからもよくわかる。ただし、日本の都市部に咲くたんぽぽは、いまやほとんどが移入種、帰化植物のセイヨウタンポポだという。
日本におけるたんぽぽは古典園芸種の一つでもあるが、セイヨウタンポポのほうはサラダなどの食材に供される食用植物でもある。
このセイヨウタンポポ、英語名は「ダンデライオン(dandelion)」といい、「ライオン」は百獣の王ライオンで、名前の意味は「ライオンの歯」ということになる。あのギザギザの葉からの連想なのだろうが、いずれにせよこの植物にふさわしい、たくましさあふれる名前である。
現在、移入種のセイヨウタンポポに押されっぱなしなのが、蝦夷(えぞ)たんぽぽ、関東たんぽぽ、関西たんぽぽなどの日本列島在来種。山野で探さなければならないほどの衰退ぶりとのこと。そして、これら在来種の異称は「鼓草(つづみぐさ)」。放射状に開いたあの綿毛の形が鼓のひものように見えることから付けられた名前という。
この連想と同様で、子どもたちは鼓を打つ音である「タンポポ」とか「テテポポ」といった言い方でこの花を呼んでいた。それを「たんぽぽ」という名の由来とするのが、日本の民俗学の巨星柳田國男の説。
しかし一方で、植物学の世界的権威である牧野富太郎博士は、その綿毛の形が稽古(けいこ)用の槍(やり)の頭につける「たんぽ」に似ていることをその名の由来に挙げている。綿を丸めて布で包んだものが「たんぽ」。それに似た穂で「たんぽ穂」、というわけである。