「こんぴら舟舟 おいてに帆かけて しゅらしゅしゅしゅ」の歌で知られる「海の神様」香川県琴平町象頭山(ことひらちょうぞうずさん)の金刀比羅宮(ことひらぐう)。「讃岐のこんぴらさん」という名で大衆から貴人まで広く親しまれてきたこの四国の古社で、4月10日に「桜花祭(おうかさい)」がある。讃岐路に春の訪れを告げる華やかな祭典といわれ、全山が桜に彩られるなかで催行される。
全1368段の石段でつながれた宮内には山桜や染井吉野など3000本以上の桜の木が植えられているが、とりわけ大門から書院までが「桜の馬場」と呼ばれる名所。その「桜の馬場」が「桜花祭」の行列の出発点となっている。
4月10日の朝、雅楽が流れるなか、神職と巫女(みこ)が数十人、行列を作って桜の花のトンネルとなった「桜の馬場」をしずしずと進んでいく。
早くも散り始めた花びらが舞う。神職の冠には桜の花が飾られ、巫女たちは桜の枝を手にしている。そうして、大門から本殿まで平安絵巻さながらの時代行列が続く。
この「桜花祭」は、古来3月10日(陰暦)に行われてきた「花会」と称する祭礼を起源とするもので、この伝統衣装による神職巫女の行列は、その古式をほうふつとさせる優美、典雅さである。
石段を上り、石畳を進んで、やがて本殿へ。祭典のために奉る山海の幸も桜の小枝で飾られている。この「神饌(しんせん)」を奉納したあと、祝詞(のりと)を奏上し、巫女による「大和舞(やまとまい)」と「八少女舞(やおとめまい)」が舞われる。
この金刀比羅宮本殿は象頭山の中腹に位置し、ここから奥社までは、まだ580余段の石段が続く。
ちなみに「金比羅」はインド・アーリア語の一つサンスクリット語(いわゆる梵語)の「クンピーラ」の漢語訳。「クンピーラ」とはガンジス川のワニを神格化した「水神」のこと。これが、船人・航海者たちの信仰を集める「海の神」金刀比羅宮につながるのである。