毎年7月1日、博多っ子の血を熱くする「博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)」が始まる。福岡市博多区にある博多の総鎮守、櫛田神社の祭礼で、国指定の重要無形民俗文化財でもある。1日から15日の「追い山」まで、連日行事が続き、博多っ子はその一つ一つに心をこめる。
5月の「博多どんたく」とともに、この地を代表する祭りだが、観光的なニュアンスも強い「博多どんたく」に比べ、「博多祇園山笠」は、地元民の“魂の祭り”。いわゆる、博多の“のぼせもん”を“山のぼせ”にする祭り。“のぼせもん”は、夢中になっている人、熱をあげている人、それにお調子者といったニュアンスが加わった、博多らしい方言である。
博多っ子は、この「博多祇園山笠」という祭りによって育てられるといっても過言ではないだろう。そのあたりの事情は1970年代後半に大ヒットした漫画「博多っ子純情」に活写されている。作・画の長谷川法世はもちろん博多の生まれ育ち。95年のNHK朝の連続テレビドラマ「走らんか!」は、この漫画をベースにしたもの。
「博多祇園山笠」は、800年近い歴史を持つ伝統行事とされるが、祭りを実質的に担う「流(ながれ)」ができたのは、戦国時代後期。豊臣秀吉の命によって、戦乱で焼け野原になった博多の復興を、一つの区画つまり「流」をベースに行ったことに始まる。
この「流」が「博多祇園山笠」を支えるグループの単位となった。他の地域の祭りの氏子の町内会といえばイメージが近いだろうか。そして、「山笠」は、山車(だし)にあたるものといえばいいだろう。現在では、恵比寿流、大黒流、土居流、東流、西流、中洲流、千代流の七つの流が祭りに参画。流の男たちは、幼児のころから、この流というグループの中で鍛えられていった。
毎年1月、博多祇園山笠振興会の新年会が櫛田神社で行われ、その年の態勢が確認される。そして、7月1日、博多の街の各所に壮大な「飾り山笠」がお目見え。高さ15mを超えるものもある。10日、各流ごとに「かき山笠」の「流かき」をして機運を高め、次第に盛り上がるなか、15日の「追い山」で最高潮となる。
15日早朝の午前4時59分、大太鼓の合図で一番山が櫛田神社に突っ込んでいく。水法被(みずはっぴ)に締め込み姿の男たちが「おっしょい、おっしょい」「おいさ、おいさ」の掛け声とともに、水をかぶりながら、1トンもの山笠をかついで怒涛(どとう)のごとく走っていく。