毎年7月中旬(2009年は7月11日)、日本の郷土芸能のなかでも代表的な盆踊りといわれ、徹夜踊りでも有名な「郡上(ぐじょう)おどり」が始まる。清流吉田川が町の中央を流れる「水の小京都・郡上八幡」、岐阜県郡上市のあちらこちらの街角で、この日から9月上旬まで、1カ月以上にわたって「郡上おどり」のさまざまな曲が流れる。
郡上おどりの特徴の一つは、日本で「最長期間」の盆踊りといわれる開催期間の長さだが、そのスタートが7月中旬の「おどり発祥祭」と「おどり始め」。その後毎日、町のどこかで地域の祭事にちなんだ「縁日おどり」が踊られる。そうして迎えるクライマックスが8月13日から16日の4日間にわたって行われる「徹夜おどり」。この盛夏のお盆の時期、郡上八幡の古い街並みは、異様ともいえるような熱気に包まれる。それは、この踊りが「見る踊り」ではなく、自分が「踊る踊り」だからである。
「郡上の八幡出て行くときは 雨も降らぬに袖しぼる」という哀切な別れの心を歌う「かわさき」。この最も有名な曲に始まって、「まつさか」で終わるというのが郡上おどりの「お約束」だが、その間に踊られる曲の数は現在でも10曲。つまり、郡上おどりとは、他の地域の、たとえば「阿波踊り」や「佐渡おけさ」のように、一つの踊りと一つの曲があるのではなく、中世から江戸時代にはやった盆踊りがいくつも集まってできた、いわば400年の歴史を伝える「盆踊りの総体」のようなもの。
また、郡上おどりを本当に楽しもうと思えば明け方までの「徹夜おどり」を、といわれるように、踊り好きは夜半から盛り上がる。このあたりが、午後9時ごろには終わってしまう他の地域と違うところだが、実はそれこそが盆踊り本来の姿。踊り櫓(やぐら)を中心にした輪踊り、あるいは町の思い思いの場所での踊りのなかで歌い踊り続けるうちに、昔ならば「士農工商」といった身分を超えた融合、また男女の出会いが生まれたのである。
「美しい日本の歴史的風土百選」に選ばれた街並みを背景に、浴衣(ゆかた)に下駄の踊り姿が揺れる。その下駄の音が、郡上おどりの曲調と川のせせらぎに混じる。地元の人も、よそからの客も、混然一体となって朝まで踊り続ける。古くからの盆踊りの形がここにある。