風景や行事で「日本三大〇〇」というくくり方がある。いわゆる「ベストスリー」的な発想でわかりやすく便利なまとめ方だが、別にどこかの協会なり委員会が定めたわけでもない。
その中で「日本三大火祭り」というものもあって、和歌山県那智(なち)勝浦町にある那智大社の「那智の火祭り」(7月14日)をはじめとして、長野県野沢温泉村の「野沢の火祭り」(1月15日)や福岡県久留米市大善寺の「玉垂宮(たまだれぐう)の鬼夜(おによ)」(1月7日)などを数えるいくつかの「三大火祭り」パターンが知られている。
ただ、いずれの「三大火祭り」の組み合わせでも、「那智の火祭り」が外れることはない。そういう意味では、誰もが認める印象深さと歴史を持つ、日本の代表的な「火祭り」といえるだろう。
毎年7月14日に斎行される「那智の火祭り」は実は通称で、正式には那智大社の「扇会式(おうぎえしき)」あるいは「扇祭」といわれる。旧暦6月14日に行われていた神事である。
那智大社は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の中心をなす神社であり、有数の歴史を誇る古社。そしてこの「扇会式」は、那智大社に祀(まつ)られている12柱の神々が、年に一度「扇御輿(みこし)」によって「那智の滝」に里帰りする神事。那智の神々、つまり那智権現が12の扇御輿に乗って本殿から那智の滝に向かうとき、それを先導する12本の大松明(たいまつ)が燃え盛る。このことをもって、この神事が「那智の火祭り」と通称されているわけである。
扇御輿は、横1m、縦6mほどの木枠に赤緞子(どんす)を張り、そこに金地に朱の日の丸を描いた32 本の扇を付ける。さらに白銅鏡8面その他の飾りを配し、「那智の大滝」を表す。一方、大松明は、ヒノキの割り板を丸く桶(おけ)のように輪締めにしたもので、重さ約50kg。この大松明12本に火をつけ、白装束に烏帽子(えぼし)姿の氏子が担いで、133の石段を練りながら扇御輿を先導する。
7月14日の午後、昼なお暗い杉木立の中、氏子たちは松明の熱さと重さに耐えながら「ハリャ、ハリャ」の掛け声とともに進んでいく。
やがて、「日本三大滝」の中でも第一といわれる「那智の滝」の荘厳な姿が見えてくる。「日本三大火祭り」と「日本三大滝」、日本を代表する行事と風景の、感動的な出会いである。