自由民主党が2012年にまとめた憲法改正草案にも盛り込まれている、海外からの武力攻撃やテロ、地震などの大災害などが起こった場合の政府・国会の権限や議員の任期を定める条項。憲法学では、国家緊急権と呼ばれている。同草案は第98条(緊急事態の宣言)において緊急事態宣言を出すための要件と手続きを、第99条(緊急事態の宣言の効果)においてその効果を定めている。具体的には、(1)外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害といった緊急事態が起こった場合、首相は事前または事後の国会承認を条件に、閣議にかけて緊急事態の宣言を発することができること、(2)100日を超えて宣言を継続しようとするときは、100日を超えるごとに改めて国会の事前承認を得なければならないこと、(3)緊急事態が発せられた場合、内閣は国会の議決なしで法律と同じ効力を持つ政令を定めることができること、(4)首相は必要な財政支出や地方自治体への指示ができること、(5)何人も財産権などに対する措置に関し、国や公的機関の指示に従うこと、(6)緊急事態宣言が効力を有する間、衆議院は解散されず、衆参両議院議員の任期、選挙期日に特例を設けられることなど。安倍晋三首相は16年夏の参議院議員選挙後にも着手をねらう憲法改正において、同条項を憲法に新設する意向を示唆した。ただし、現行の法律でも緊急事態への対応が可能なこと、自民党の草案では緊急事態宣言による内閣の権限が強大である一方、発動要件が非常にあいまいなこと、すなわち思想・良心の自由や表現の自由、生存権、財産権といった基本的人権の制限、地方自治への介入などの問題点があることから、同条項の新設には反対論が多い。