アメリカが他国と通商に関する交渉を行うときに、その権限を大統領に一任する制度。大統領貿易促進権限とも呼ばれる。アメリカの憲法では、通商に関する法の制定や通商政策の決定について、連邦議会が強い権限を有するとされている。政府が貿易促進権限を持たずに他国と貿易協定などを締結しても、議会は一つひとつの条文を精査し、修正要求を出すことができる。しかし、大統領が貿易促進権限を持つ場合は、議会は提出された協定や法案に対して修正を加えることができず、一括で承認するか拒否するかを90日以内に決めなければならない。交渉が複雑化しやすい多国間の貿易協定などをスムーズに進めることを目的として、1974年の通商法で初めて制度化され、「追い越し車線」を意味するファストトラックと呼ばれた。その後、通商法が更新されるたびにファストトラック権限が大統領に付与されていたが、94年に一度失効。ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の2002年にTPA法として新たに成立したが、これも07年に失効した。オバマ政権が進める環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でも、大統領が貿易促進権限を持っておらず、議会による事後の修正要求の可能性があることが、参加各国との交渉停滞の一因になっているといわれる。そのため、TPP交渉妥結を目指すアメリカ議会の超党派議員は15年4月に貿易促進権限の法案を議会に提出。早期に成立するか、注目が集まっている。