サウジアラビアが2016年1月3日に発表したイランとの外交関係の断絶。サウジアラビアが同月2日に発表した死刑執行が直接的なきっかけとなった。処刑されたのは47人で、主にアルカイダ系の過激派組織に属していた者などだったが、その中にイスラム教シーア派の高名な法学者であるニムル師が含まれていた。同師は11年にサウジアラビア政府に対する抗議デモを主導したことで逮捕され、14年に死刑判決を受けた人物で、シーア派を国教とするイランは死刑を執行しないよう要請していた。処刑が発表されるとイラン国内ではサウジアラビアに対する抗議デモなどが発生。イランの首都テヘランのサウジアラビア大使館や、イラン北東部の主要都市マシャドのサウジアラビア領事館が暴徒化した群衆に襲撃された。この事態を受けて翌3日、サウジアラビアのジュベイル外務大臣は、国際協定違反である大使館・領事館襲撃を阻止しなかったとしてイラン政府を非難。サウジアラビア国内にいるイラン外交官に48時間以内の国外退去を求め、イラン駐在の自国外交官も帰国させると発表した。また、4日にはイランの民間航空機の発着や自国民のイラン渡航も禁じた。両国は1979年のイラン革命(イスラム革命)をきっかけに関係が悪化し、88年にも一時、国交が断絶したことがある。近年も、いわゆるアラブの春以降、混乱が続く中東情勢をめぐって対立。シリアやイエメンの情勢に関して、それぞれが対立する勢力を支援している。混乱の中でシーア派が多く住むイラクやシリアなどにイランが影響力を広げようとする動きに対し、スンニ派主体のサウジアラビアが警戒感を強めているという、宗派対立の側面も指摘される。国交断絶の表明を受け、バーレーンやスーダン、ジブチ、ソマリアがサウジアラビアに同調してイランとの断交を発表。中東を代表する2大国の対立により、シリアの和平協議や過激派組織「イスラム国(IS)」対策などへの悪影響が懸念されている。