ミャンマーでは1962年のクーデター以降長らく軍事政権が続いたが、2011年の民政移管後、15年11月8月に上下両院議員を選ぶ初の総選挙が行われた。その結果、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が、非改選の軍人議席(上下院のそれぞれ4分の1)を含めた全議席(664議席)の過半数を大きく上回る390議席を確保し、歴史的政権交代が実現した。新大統領は、上院の民選議員団、下院の民選議員団、上下院の軍人議員団からそれぞれ擁立される3人の大統領候補から全議員投票で選ばれた人物が就任するためNLDの候補が大統領に選出されることが確実となった。しかし、軍事政権下で定められた憲法には配偶者や子どもが外国籍を持つ人物は大統領になれないと規定されており、息子がイギリス国籍をもつ党首アウンサンスーチーは大統領に就任できない。しかし総選挙前からアウンサンスーチーは「大統領より上に立つ」と発言しており、そのため与党NLDが新たに創設した役職が国家顧問である。16年3月31日、与党が同役職を新設する法案を国会に提出。4月1日に上院、5日に下院で可決し、6日にティンチョー大統領が署名して成立した。法案の審議の際には、上下両院で軍人議員が、憲法違反に当たるなど強い反発を示したが、過半数を握る与党が押し切る形で成立した。同法では、国家顧問の役割を、民主主義の確立や国内和平、経済発展など、国政全般について正副大統領や閣僚、省庁などに対して助言することと規定しており、任期は新政権と同じ5年。アウンサンスーチーは当初兼務していた四つの閣僚ポストのうち、教育相と電力・エネルギー相からは退いたが、外相と大統領府相は引き続き兼務。国家顧問に就いたことによって、事実上、政権を掌握することとなった。