イスラム教初期の原則や精神への回帰を目指す思想。サラフィー主義、サラフィーヤとも呼ばれる。「サラフ」とはアラビア語で「祖先」「先人」を意味する言葉で、イスラム教においては、生前の預言者ムハンマドとともに活動した教友たちを指す。近代以降、植民地支配など西洋列強による圧力が強まるなかで、初期の教えに立ち返ることこそがイスラム再興に必要と考える人々によって生まれ、その後、アラブ諸国に広まった。サウジアラビアで18世紀に興り、現在も同国で多数派を占めるイスラム改革運動のワッハーブ派などが、その代表とされる。現代のサラフ主義者の主張や行動には幅があるが、ムスリム同胞団をはじめとする穏健派イスラム主義に比べて、より保守的な傾向が強く、宗教的義務の履行や男女の隔離などについて厳格な態度を取ることが多い。また、新奇な考え方やものごとを伝統からの逸脱とみなして忌避することもある。もともとは政治的制度に対する関心に乏しかったが、近年、いわゆるアラブの春によって政権が打倒された国々ではサラフ主義とみなされる勢力が政治的な存在感を増しており、12年1月にはエジプトでサラフ主義政党のヌール党(光の党)が第二党に躍進したことが話題に。同国では13年7月にモルシ大統領が解任されるなど政情不安が続くなか、その動向が注目されている。