南シナ海の領有権をめぐって、フィリピンが中国を提訴した国際的な仲裁裁判。裁判の背景にあるのは、2012年、中国がフィリピンの排他的経済水域内のスカボロー礁を実効支配したこと。フィリピン海軍が中国漁船を取り締まろうとしたところ、中国の海洋調査船がこれを阻止して対峙する事態となった。フィリピン政府は、国際的な司法機関の判断を仰ぐべきであると提案したが、中国側はこれを拒否。13年1月、フィリピンが国連海洋法条約に基づいて仲裁を申し立て、3年にわたる審理が続けられてきた。16年7月12日、オランダにあるハーグの常設仲裁裁判所は、中国が南シナ海に独自に設定した九段線という境界線の内側に、中国の主権や管轄権、歴史的権利があるとする主張に対し、法的根拠がなく国際法に違反するとの判断を示した。同裁判所は、中国が13年12月ごろから南シナ海で造成を行ってきた人工島周辺には排他的経済水域がないことやフィリピンの伝統的な漁業権を侵害したことを認め、人工島での埋め立てなどが国連海洋法条約に定める環境保護義務に違反するとの判断を示すなど、中国にとって厳しい内容となった。また、仲裁裁判所は通常、手続き開始後に起こった事柄については判断しないが、中国が行った人工島の造成などについて、仲裁手続き中に紛争を悪化させたり拡大させたりしないという義務に反するとの異例の対応を行った。原則として上訴はできず、法的拘束力もあるが、従わない場合の罰則規定はない。日本やアメリカをはじめ、各国政府は判決の受け入れを求めているが、中国政府は、南シナ海での2000年以上にわたる活動の歴史があり、南シナ海の島々に主権があるとの声明を発表。仲裁裁判所の裁判官の国籍なども問題視し、判決を拒否する姿勢を示した。フィリピン国内では、中国は南シナ海から出て行けとの意味を込めた「CHexit(チェグジット)」という言葉が広がり始めている。