イラク北部を中心に、一部のクルド人が信仰している宗教。日本では、「ヤジード教」「ヤズィード教」などとも表記され、信者は「ヤジーディー」「ヤズィーディー」と呼ばれる。起源については不明な点も多いが、ゾロアスター教やマニ教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など、中東の複数の宗教が持つ要素が入り混じりながら、12世紀ごろに形成されたと考えられている。神のほかに、クジャクの姿をした天使マラク・ターウースを信仰の対象としており、その姿をかたどった像をあがめる。また、イスラム教の神秘主義(スーフィズム)でも聖者とされるシャイフ・アディーを尊崇し、イラクの都市モスル近郊のラリーシュにあるその墓所を最大の聖地としている。輪廻転生を信じることや、信者の間に厳格な階層が存在すること、他宗教からの改宗を認めないことなども特徴。偶像崇拝を禁止するイスラム教徒などからは異端の悪魔崇拝者とみなされることが多く、その歴史を通じて、しばしば迫害、蔑視の対象となってきた。イラクには約50万人が居住しているといわれるが、2014年8月ごろからは、シリアやイラクで勢力を拡大したイスラム教スンニ派の過激派組織イスラム国(IS)によって、イラク北部のシンジャルなどの居住地が攻撃され、多くのヤジディ教徒が改宗を強要されたり、虐殺されたりする事態に発展。土地を追われた避難民も多数出ており、国際的な問題となっている。