それぞれ、サルモネラ菌の一種であるチフス菌、パラチフス菌によって引き起こされる感染症で、ともに法定伝染病に指定されている。一般のサルモネラ感染症とは区別され、チフス性疾患と総称される。保菌者の排泄(はいせつ)物によって汚染された水や食品を経口摂取することで感染し、1~3週間程度の潜伏期間を経て発症する。動物は感染せず、人間同士でしか感染しないのが特徴。腸チフスの場合、主な症状は38度以上の高い発熱、頭痛、全身のだるさ、便秘などで、患者の30~50%程度には、高熱のわりに脈拍数が低い、脾臓がはれる、胸、腹、背中にピンク色の発疹(バラ疹)が現れるなどの特有の症状が見られる。重症化すると、腸から出血したり、腸に穴が開いたりして、死亡する危険性が高まる。パラチフスも腸チフスとほぼ同様の症状が出るが、一般にパラチフスのほうが軽症で済むことが多い。通常、治療には主に抗生物質が処方される。また、予防にはワクチンが有効だが、日本では承認されていない。東南アジアや南アジア、中南米などの地域で流行を繰り返しており、全世界で毎年約2000万人の患者が発生して、そのうち20万~30万人が死亡していると推計されている。日本でもかつては年間数万人の患者が発生していたが、衛生水準の向上とともに感染者数は減少し、1970年代までには年間300例程度になった。近年、国内で報告された感染例の多くは、旅行者などを介して海外から持ち込まれたケースとされる。しかし、2014年9月に東京都内の飲食店で腸チフスによる集団食中毒が発生。国が統計を取り始めた2000年以降で、食品を原因とする腸チフスの国内感染が確認された初の事例となった。