脳機能障害によって、人の顔を見ても認識できない病気。正式名称は相貌失認という。1947年にドイツの神経内科医ボダメルが報告した。目や鼻など、顔を構成する部位の一つひとつは認識できるが、それらが合わさって構成される顔の全体像を把握することや、顔の記憶、表情の認識などができない。そのため、視覚には障害がないにもかかわらず、家族や友人、さらには鏡に映った自分自身など、熟知しているはずの顔を見ても、それが誰だかわからないことすらある。ただし、声や髪形、体形、しぐさなど、顔以外の情報をヒントに識別することは可能。近年の脳機能研究では、顔を認識する働きを担う側頭葉、後頭葉の機能障害が原因と考えられているが、有効な治療法は確立されていない。遺伝などによって起こる先天性のものと、脳腫瘍や脳血管障害、外傷によって受けた脳の損傷を原因とする後天性のものがある。先天性の場合は、患者自身が認識能力の違いに気づいていない例も多いといわれ、人口の約2%が先天性相貌失認という説もある。2013年5月には、アメリカの俳優ブラッド・ピットがこの病気の疑いがあることを明らかにし、話題になった。