がん細胞でのみ増殖するように改変したウイルスを感染させて、がんを叩く治療法。ウイルス療法の開発研究は1990年代以降に始まり、欧米では2015年半ばにも第二世代のがん治療用ウイルス開発品の承認を目指す状況にある。手術、抗がん剤、放射線療法に続く新たな発想のがん治療法として注目されている。この治療法では、遺伝子工学の技術を用いて、がん細胞では増殖するが正常な細胞では増殖しないウイルスを人工的に造り出して応用。この遺伝子組み換えウイルスは、がん細胞に感染するとすぐに増殖を始め、その過程でがん細胞を死滅させる。増殖したウイルスは周囲に散らばって他のがん細胞に感染し、次々にがん細胞を破壊していく。14年12月18日、東京大学医科学研究所が、悪性脳腫瘍の一種である膠芽腫(こうがしゅ)の患者に対し、日本で初めてのウイルス療法の治験を始めることを発表した。対象は、手術でがんを摘出した後、抗がん剤と放射線による治療を行ってもがん細胞が残っていたり、がんが再発したりした30人の患者。同研究所附属病院脳腫瘍外科の藤堂具紀(ともき)教授らのグループが口唇ヘルペスウイルスの遺伝子を改変して開発したG 47Δ(デルタ)というウイルスを、腫瘍に注入して感染させ、がん細胞を破壊する。09年11月から再発膠芽腫の患者を対象に行われてきた臨床研究では副作用もほとんどなく、10人中3人が3年以上生存した。今後は、国産初のがん治療用ウイルス薬として早期の実用化を目指す。