ノーベル賞6部門の一つで、医学や生理学の分野で優れた業績があった人を顕彰する賞。2015年10月5日、選考元であるスウェーデンのカロリンスカ医学研究所は、同年の賞を北里大学の大村智特別栄誉教授、アイルランド出身でアメリカのドリュー大学名誉研究フェローのウィリアム・キャンベル博士、中国中医科学院の屠●●(トゥーユーユー、●は口へんに幼)首席研究員の3人に授与すると発表した。大村教授、キャンベル博士の授賞理由は「寄生虫によって引き起こされる感染症の治療法の開発」。大村教授は1974年に静岡県の土壌から、寄生虫駆除に効果がある化合物(エバーメクチン)を出す細菌を発見し、共同研究をしていたアメリカの大手製薬会社メルクに報告。当時、同社で研究していたキャンベル博士が動物実験で効果を確認し、メルク社が化合物の構造を一部変えた家畜用の寄生虫駆除薬「イベルメクチン」を81年に発売した。その後、人の寄生虫感染症にも効果があることがわかり、線虫が原因で失明などを引き起こすおそれがあるオンコセルカ症(河川盲目症)や、皮膚などが肥大して硬くなるリンパ系フィラリア症(象皮症)など、主に熱帯域で流行する感染症の治療薬「メクチザン」として普及。世界保健機関(WHO)が進めるプログラムにより、2012年までにのべ10億人以上に無償提供された。一方、中国国内の中国人研究者として、自然科学系のノーベル賞を初めて授賞された屠研究員の授賞理由は「マラリアの新規治療法に関する発見」。同研究院は1960~70年代にマラリア治療薬開発のため、漢方薬に使われる伝統的な薬草を研究し、キク科の植物クソニンジンから抽出した物質「アルテミシニン」がマラリア治療に有効であることを示した。これら二つの発見が、主に開発途上国で感染症対策に貢献していることが評価された。授賞式は2015年12月10日にストックホルムで開かれ、賞金の800万スウェーデン・クローナ(約1億1200万円)は半分が屠研究員に、4分の1ずつが大村教授、キャンベル博士に贈られる。