トウダイグサ科の植物トウゴマ(ヒマ)から抽出される有毒物質。トウゴマの種子に含まれるたんぱく質の一種で、19世紀末にスティルマルクによって発見、命名された。トウゴマの種子はひまし油の原料となり、機械の潤滑油や塗料などに利用されるが、その製造過程で生じるくずの約5%がリシンになる。精製されたリシンは無味無臭で、体内に入ると細胞でのたんぱく質合成を阻害し、細胞死を引き起こす。十分に加熱すると不活性化できるが、体内に入った後は有効な解毒剤はなく、人間に対する致死量は1ミリグラム以下とされ、ごく微量。経口摂取の場合は胃腸管の出血や壊死などが、噴霧されたものを吸入した場合は気道の壊死や肺水腫などが、静脈から入った場合は筋肉やリンパ節の壊死などの症状が現れる。そのため、化学兵器として利用されることがあり、1978年にはブルガリアからイギリスに亡命していた反体制活動家に対する暗殺に用いられた。97年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)でも、毒性化学物質として名前が挙げられている。2013年4月には、アメリカのオバマ大統領やウィッカー上院議員にあてた郵便物からリシンが検出されるテロ事件が発生した。