ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の長期感染者の一部に見られる認知障害。他の認知症と同様に、記憶力や注意力の低下、怒りっぽくなるなどの性格の変化、転倒しやすくなるなどの運動障害が主な症状とされる。原因は明らかになっていないが、ウイルスによる脳への侵入や、治療薬の影響による可能性が考えられている。HIV感染者の認知障害としては従来、主に後天性免疫不全症候群(エイズ)発症後に起きる重篤なエイズ脳症(ADC)がよく知られていた。その後、複数の抗HIV薬を組み合わせて投与する多剤併用療法が1990年代後半から普及したことで、感染者はエイズの発症を長期間抑えることができるようになり、エイズ脳症も減少した。しかし、近年になってエイズ脳症よりは軽度なものの、エイズを発症していない感染者の中に認知機能の低下が認められるケースが多いことが報告され、2007年にHIV関連神経認知障害と呼ばれるようになった。1555人の感染者を対象としたアメリカの調査では、日常生活に支障がない程度まで含めると、感染者の約半数に認知障害が見られたという。日本でも、国立国際医療研究センター(東京都新宿区)などの医療機関が初の実態調査を14年に開始した。