幼少期に親などの養育者から虐待やネグレクト(養育放棄)などを受けたことが原因となって、自分の感情や行動のコントロールがうまくいかなくなる、行動障害や情緒障害の総称。愛着とは、1950年代にイギリスの精神科医ジョン・ボウルビーが提唱した概念で、特定の対象に対して形成される情愛的な結びつきを指す。乳幼児期には養育者との間でしっかりした愛着が形成されることが重要となる。愛着は子どもが泣いたり、笑ったり、しがみついたりするといった行動の起源となり、それらに対して養育者が適切に応えることによって、子どもは安心感や信頼感を得ることができる。しかし、身体的、心理的な虐待やネグレクトを受けたり、養育者が頻繁に入れ替わったりする状況下に育ち、愛着の形成がうまくいかないと、子どもの発達や人格形成に大きな影響を及ぼすことがある。重度の愛着障害を抱えた子どもには、反抗的、衝動的、破壊的な行動や、他者への強い警戒心、または過剰ななれなれしさなどの特徴があり、総じて他人と適切な社会的関係を築くことができない。精神医学の分類では、愛着障害は(1)他者に対して強い警戒心や攻撃性を示すタイプ、(2)誰にでも見境なく愛着を示すタイプ、に大別される。アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-IV-TR」では、両者を大きく「反応性愛着障害」ととらえ、その中で(1)を「抑制型」、(2)を「脱抑制型」に分類している。また、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類「ICD-10」では、(1)を「反応性愛着障害」、(2)を「脱抑制性愛着障害」と称している。愛着障害の改善には、虐待やネグレクトで受けた心身の傷の修復を行っていくなど、適切な環境で継続して養育することが必要とされる。最近では、オキシトシンというホルモンの投与を愛着障害の治療につなげる研究が行われており、注目を集めている。