オオムラ・サトシ。薬学博士、理学博士。
1935年7月12日、山梨県生まれ。54年に同県立韮崎高校を卒業し、山梨大学学芸学部に進学。58年に同大を卒業後、東京都立墨田工業高校の定時制の教諭になるが、研究者の道を志し、東京教育大学(現・筑波大学)の研修生を経て、東京理科大学大学院理学研究科に入学する。63年に修士課程を修了し、山梨大学文部教官助手。同大でのワイン醸造の研究を通して微生物への関心を高め、65年に北里研究所に移って抗生物質の研究に取り組む。68年、東京大学薬学部で薬学博士号を取得。70年に東京理科大学で理学博士号も取得した。71年、アメリカのウエスレーヤン大学に客員教授として招かれ同国に留学。73年に帰国し、北里研究所抗生物質室長として、微生物が作る化合物の研究を本格的に始める。74年、静岡県伊東市の土壌から、放線菌の新種であるストレプトマイセス・アベルメクチニウスを発見。共同研究していたアメリカの大手製薬会社メルクに試料を送ったところ、菌が出す化合物が寄生虫駆除に有効なことが動物実験でわかり、化合物をエバーメクチンと命名した。この化合物をもとに改良を加えた動物用の寄生虫駆除薬「イベルメクチン」は81年に同社から発売された。のちにオンコセルカ症(河川盲目症)など人の寄生虫感染症治療にも有効なことが判明したことから、人間用の治療薬「メクチザン」として、アフリカや南米などで普及が進められた。このほかにも約500種類の化合物を微生物から発見しており、うち約30種が研究用試薬などとして実用化されている。75年、北里大学薬学部教授。90年、北里研究所所長。日本学士院賞(90年)、紫綬褒章(92年)、紺綬褒章(99年)、文化功労者(2012年)、ガードナー世界保健賞(14年)など受賞多数。美術品の愛好家としても知られ、07年には自身が収集した絵画などを公開する韮崎大村美術館を山梨県韮崎市に開館させ、同市に寄贈した。15年10月には、寄生虫感染症の治療法開発における功績が評価され、ともにイベルメクチンの開発に貢献したアイルランド出身のウィリアム・キャンベル博士、また、マラリアの新治療法を開発した中国出身の屠●●(トゥーユーユー、●は口へんに幼)研究員とともに同年のノーベル医学・生理学賞を受賞した。