経済問題で対象とする人や組織が将来の状況を予想するときに、首尾一貫して事後的な実現値から外れた予想形成を行うことはない、とする考え方や仮説を指す。合理的期待仮説(rational expectations hypothesis)とも呼ばれる。より正確には、モデル内の意思決定主体が将来の経済変数を予想する際に、(1)モデルの予測(モデル内で決定される均衡経路)が正しく、(2)正しい予測のもとで発生する不確実性については、その変数の、モデルが示唆する確率分布のもとでの期待値を予想として採用する、というもの。合理的期待は平均的に予想が正しいことのみを要求しており、将来を正確に予想できる(これを完全予見〈perfect foresight〉と呼ぶ)とする仮説とは異なる。
合理的期待の考え方はジョン・ミュス(John F. Muth 1930~2005)によって初めて経済分析に取り入れられ、その後、のちにノーベル経済学賞を受賞するロバート・ルーカス(Robert E. Lucas, Jr. 1937~)やトーマス・サージェント(Thomas J. Sargent 1943~)たちによってマクロ経済モデルに大々的に応用された。これは合理的期待革命(rational expectations revolution)と呼ばれる。彼らの分析した初期の合理的期待モデルは完全競争市場(perfectly competitive market)を前提としており、「(モデルと整合的な)マクロ経済政策は経済主体に予想されてしまい効果が無い」という政策無効命題(policy ineffectiveness proposition)が成立する。このことから、合理的期待がただちに政策の無効性を意味するという誤解が広がったが、完全競争市場を離れた経済モデルに合理的期待仮説を適用した場合には、そのような含意は得られない。合理的期待とは、あくまで予想形成に対する仮説である点に注意が必要である。