財政赤字(budget deficit)と経常収支赤字(current account deficit)が同時に発生すること。1980年代にも問題になったが、ブッシュ政権下での財政赤字と対外赤字は規模も大きく、アメリカ経済の不安定要因に発展する懸念が生じている。アメリカの連邦政府財政赤字は80年代を通して増加を続け、92年には過去最高の2904億ドルに達した。その後、90年代の長期景気拡大によって税収の自然増収が続き、さらにクリントン政権の財政赤字削減政策とあいまって98年には68年以来初めて黒字に転じ、クリントン政権終了時点(2001年1月)の政府長期予測では11年までに累積財政黒字がほぼ4兆ドルに達するとみられていた。しかし、(1)ブッシュ政権発足直後に景気後退が始まり、税収の伸びが鈍化、(2)01年9月の同時多発テロとその後のアフガニスタン侵攻、さらには03年のイラク戦争などの地政学的リスクによって国内安全保障対策と戦費、アフガニスタン、イラク復興支援などの新たな支出が発生、(3)ブッシュ現政権下での大型所得減税などにより、一挙に財政赤字が膨張し、04会計年度(04年10月~05年9月)の連邦政府赤字は4120億ドル(対GDP比3.63%)に達した。その後、景気回復を受けて歳入が増加傾向に転じたため連邦赤字は縮小したが、その後1946~64年生まれのベビーブーマー世代の大量退職による社会保障関連支出の増大やイラク駐留経費、景気刺激策としての減税のため、財政赤字は2008年度には3960億ドル、09年度3420億ドルと高水準で推移する見込みである(議会予算局推計)。政府部門の資金不足拡大に加えて、国民の貯蓄意欲が高くないため、アメリカ全体の資金不足を表す経常収支赤字も、02年に前年比で28%増の5034億ドルに達し、アメリカとして初めて5000億ドルを突破した後、03年5196億ドル、04年6680億ドル、05年7714億ドルと年々増加し、10年には1兆ドルに達するという予測もある。1990年代には他国に比べてアメリカの生産性上昇率が高く、IT産業を中心に株価上昇も続いたため、アジア、ヨーロッパの民間資本が競ってアメリカに投資する環境が整っていた。しかし、ITバブルが崩壊し、経済成長率も低下する中で、90年代と同様の海外民間資本流入を期待することはできない。他方、2002~03年には自国通貨の対ドルレート維持を目的として外国為替市場に介入した中国と日本を始めとするアジア各国の政府が大量のドルを購入し、アメリカ国債の形で保有している。04年には特に日本の介入資金の流入規模が03年のアメリカ国債保有残高純増の44%を占めた。アメリカの経常収支赤字がこれ以上増加し、海外資金のファイナンス能力を超えると、株価・債券価格の暴落を契機に資金の海外流出が起こり、国内で流動性不足による景気後退に陥る危険を抱えている。