サブプライム問題に端を発する2008年9月の金融危機の中で、アメリカの証券会社大手のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが、グループの持ち株会社を銀行持ち株会社に転換する戦略を採ったこと。その狙いは、銀行持ち株会社化とともにグループ内に預金を扱う銀行を設けることで、資金繰りを少しでも楽にしようという点にあろう。グループに銀行があれば、アメリカの中央銀行であるFRB(各地区の連邦準備銀行)から資金を調達することが容易になり、また、アメリカにも銀行を対象とした預金保険制度があるが、銀行を設けることでそのセーフティー・ネットの庇護を受けることを期待できるからである。つまり、両社の銀行持ち株会社化は金融危機の中での緊急避難的な措置と位置づけられる。なお、ゴールドマン・サックスの場合、グループの持ち株会社が銀行持ち株会社になったのであって、これまでグループ内で証券業務を行ってきた証券会社がなくなったわけではない。モルガン・スタンレーの場合も同様で、09年1月には、シティグループからアメリカ屈指のリテール向け証券会社スミス・バーニーを事実上、買収したほどである。銀行持ち株会社になれば自己資本規制が厳しくなるので、これまでのようなレバレッジを前提としたビジネスを維持することが難しくなるが、だからといって両社が銀行持ち株会社の体制の下で、グループのビジネスの軸足を証券業務から銀行業務に移す、ということはあまり想定できない。