中国の経済が発展するに従って、資本取引の自由化が必要になってきている。企業が国際的な事業活動を活発化すると、容易に資本取引規制の抜け穴を使えるようになるという意味で規制の有効性が低下する一方で、資本取引規制が企業の国際的な活動の制約になるからである。実際、1992年以降に対内直接投資の受け入れを大幅に自由化し、96年には財・サービスの貿易にともなう資本取引に関する為替管理(foreign exchange control)も緩和している。さらに2006年4月には、一部の中国の金融機関(適格国内機関投資家 QDIIとよばれる)に対して、対外証券投資を解禁する方針を示したほか、一定の限度内での個人や企業による外貨購入を認める規制緩和を発表した。
中国が資本取引を自由化する場合に考慮すべき重要な点は、(1)独立した金融政策、(2)固定相場制の維持、(3)自由な資本取引、の三つのうち達成できるのは二つだけだということである。これは、「マンデルの不可能な三角形」とよばれる命題である。中国の経済規模から考えると、金融政策の独立性を維持することが必要なため、資本取引を完全に自由化すれば変動相場制に移行せざるを得なくなる。実際、03年から04年にかけての景気過熱期には、金利を大幅に引き上げると資本の流入が加速して巨額のドル買い入れ介入が必要となるため、金利の引き上げを小幅にとどめるとともに、市場をゆがめる土地の利用規制を強化することで景気の過熱を防ぐ必要があった。これも05年7月に人民元の対米ドル固定相場を廃止した原因であったと推察される。