金融市場における貸借金利は、貸借する通貨によって異なるが、この金利差を利用して利ざやを得る取引を、一般に金利裁定取引とよぶ。金利裁定取引には、為替リスクをともなうカバーなしの金利裁定(uncovered interest arbitrage)と、先物為替を用いて為替リスクをヘッジした、カバー付きの金利裁定(covered interest arbitrage)を明確に区別する必要がある。カバーなしの金利裁定としては、金利の高い国(たとえばタイ)と低い国の通貨(たとえばアメリカ)が固定相場になっているのを利用して、低い金利の国の通貨で借り入れを行った上で、その資金を用いて金利の高い国の通貨で運用する場合がある。この場合、資金運用を行う期間において固定相場制が維持されれば利益を上げることができるが、金利の高い国の通貨(タイバーツ)が切り下げられると、大きな損失を被る。また日本の投資家による、オーストラリアドルや米ドル債券による先物カバーなしの運用も、変動相場となっている通貨の間のカバーなし金利裁定の例である。
一方、先物によるカバー付きの金利裁定の例としては、(1)円資金をそのまま円資金市場で運用するか、(2)円資金により直物のドルを購入した上でドル運用し、運用期間の末にドルの元利金合計を先物為替市場で売却して円に戻す取引を行うか、の二つの運用方法を、為替の直物相場と先物相場の間の乖離率(直先スプレッド)や円とドルの金利差を見ながら決定する取引である。この(2)の取引では外貨による運用を行っているが、仮に為替相場が変動しても、先物取引により将来のドル売り円買い相場が確定しているため、為替リスクをともなわないのが特徴である。