貿易財部門の労働生産性が上昇する国ほど、物価水準は上昇し、実質為替レートは下落する現象をさす。特に、なぜ先進国の物価水準は高く、なぜ途上国の物価水準は低いのかを説明する有力な理論の一つである。一国の生産構造を、貿易財を生産する部門と非貿易財を生産する部門に分けて議論する。そして貿易財価格は国際価格でほぼ一定に決まっているのに対して、非貿易財価格は国内事情で変化すると考える。貿易財企業の労働生産性が上昇すると、貿易財価格は国際価格でほぼ一定であるため、賃金が上昇する。一方、非貿易財企業は労働力を引き付けるために、賃金の上昇は非貿易財価格を上昇させる。物価水準は貿易財価格と非貿易財価格の加重平均であらわされるため上昇することになり、実質為替レートは下落する。過去のデータを振り返ると、日本の非貿易財価格の貿易財価格に対する相対価格はアメリカの相対価格に比べて上昇しており、日本の物価水準は上昇し、実質為替レートは長期的に下落している。この結果は、戦後の長い期間にわたって、日本の労働生産性の上昇率がアメリカよりも高かったという事実と対応している。