顧客に提供される製品やサービスそれ自体の価値ではなく、製品やサービスに付随する周辺的な価値の一つ。『経験経済』(2000年、流通科学大学出版)の著者B・J・パインIIとJ・H・ギルモア(B.J.PineII、J.H.Gilmore)は、コーヒーの例を用いて経験価値を説明している。高級レストランやエスプレッソ・バーで飲む一杯のコーヒーは2~5ドル程度であるが、イタリアのベネチア・サンマルコ広場にある著名なカフェ「カフェフロリアン」で飲む一杯のコーヒーは15ドルを超える。この価格の違いは、コーヒー豆の種類やコーヒーの入れ方によるのではなく、コーヒーが提供される雰囲気に基づいている。カフェフロリアンは美しい街中に立地しており、どこからともなく素敵な音楽が流れてくる。海が近いこともあり、潮の香りも漂ってくる。これだけの舞台が整っていれば、一杯のコーヒーに15ドルを支払っても惜しくはないと感じてもらえるのだ。古代ローマをテーマとしたホテルや熱帯雨林をテーマとしたレストランなども、経験価値を打ち出しているといえる。経験価値はカフェ、レストラン、ホテルなどのサービス業でいち早く取り組まれてきたが、市場のコモディティー化が進んだことにより、製造業においても経験価値の創出が大きな課題となっている。飲料業界や食品業界では、パッケージを工夫することによって経験価値を生み出そうとしている企業も多い。