一定の地域とそこに居住する住民に対して他国の影響を排して権力を行使する政治組織。国家ないし国という用語は古代ギリシャなどの都市国家、古代のエジプトや中国やインカなどの帝国、ジンギスカンの組織したような部族国家ないし遊牧帝国、徳川時代の日本のような封建国家にも広く適用されるが、(1)領土、(2)人民、(3)その領土と人民に対して主権を有する有効な政府、という国家の三要素が備わって近代国家(modern state)とよばれ、前述の国家とは概念的に明確に区別されている。近代国家がまず成立したのはおよそ16~17世紀の西ヨーロッパである。歴史上、絶対君主とよばれる西ヨーロッパの強力な君主は宗教改革によって、一方ではそれまで全ヨーロッパを支配していたローマ・カトリック教会から宗教的、思想的な独立を達成する。他方で文武の官僚制(中央・地方の行政官と国王に直属する常備軍)という新しい手段を用いて、地方に割拠する封建諸侯の権力を奪う。さまざまな封建的拘束から自由に経済行動を営むことを要求していた新興のブルジョア階級は、この王権による国家統一を支持する。こうして国内市場が生まれ、この時期に始まった海外貿易にも刺激されて資本主義が興る。国語と国民文学、さらには国民的な文化と生活様式が生まれたのもこの時期のことであった。