ネーション(民族あるいは国民)の統一と独立を求め、さらにはその栄光を求める思想と運動。ネーションという語に込められている力点の差異によって民族主義、国民主義、国家主義の訳語があてられる。民族が各国の具体的な歴史的条件に応じてきわめて個性的な存在であるのと同じく、ナショナリズムの構造と発現の形態もきわめて多様である。強烈な感情を動員することができ、20世紀以降は他のいかなる政治思想や運動もナショナリズムを敵にまわしては成功はおぼつかないといわれている。多くの場合、他の思想や運動と結びついてその原動力ともなる。民族が他国の支配からの解放を求めることは自由主義の発現であり、民族の政治的運命を民族の成員が自ら決定するのは民主主義の発現である。そして運動が大衆を動員する時には社会主義的な政策内容を帯びることが多い。また国内における自由の抑圧と対外侵略にナショナリズムが動員されることも多く、それがまた侵略を受けた国のナショナリズムを覚醒した。民族が統一と独立を実現する権利は、民族自決権(right of national self-determination)として国際人権規約等で認められた人権の一つとなっている。西欧の先進諸国においては、絶対君主への忠誠心として始まった国家への帰属意識が市民革命を通じて国民としての意識に成長した。しかし先進諸国では理性、社会契約、自由や民主主義などの普遍的契機を媒介にして国民形成が進んだのに対して、発展途上国では先進国に対する劣等感、屈辱の意識がナショナリズムの核となり、言語、宗教、血と土とのつながりなどの伝統の自覚を呼び起こす。一般にナショナリズムの思想は、(1)国民的伝統、(2)国民的利益、(3)国民的使命、の三つの要素を組み込んで形成される。今日の世界の多くの国は一つの民族から成り立っておらず、一つの国家内の複数民族の権利を主張する際に、民族よりもエスニシティという言葉が使われるようになっている。