政治権力は、軍事力や警察力に代表される物理的強制力から経済力や世論のような強制的でない影響力までが含まれているが、前者をハード・パワー(硬い力)、後者をソフト・パワー(軟らかい力)とよぶ。政治権力のこのような二面性は古くから指摘されてきたことであるが、最近になって改めてこのような新語を用いて両者の区別が意識されるようになった背景には、明らかに米ソ冷戦の終結という世界史的な事実があった。アメリカとロシアは依然として圧倒的な核戦力を有しているが、ロシアはその戦力を行使する意思を失い、他方でアメリカは湾岸戦争でその強大な軍事力を発揮してみせたものの、その軍事費は日本やドイツ、サウジアラビアに頼らねばならなかった。日本やドイツは軍事参加をためらい、経済的貢献に限ろうとしている。こうしてハードからソフトヘの移行が意識されることになった。近年、アメリカがイラク占領に失敗したことから、単なる軍事力(ハード・パワー)の行使だけでは不十分、むしろ逆効果であるとして、ソフト・パワーが強調されている。